(2025年4月22日)

合唱などでは、「きれいにハモると倍音が 聞こえる」とよく言われている。例えばドミソの和音[1]で、きれいにハーモニー[1]ができる(ハモる)と、発声していないはずの上のドの音が聞こえる。これは何だろうか。物理的に存在するのか、存在しないものが聞こえる錯覚なのか。

周期的な信号では、基本周波数(周期の逆数)の整数倍の周波数をもつ正弦波の成分(高調波成分)が常に存在する。音の場合、高調波成分は倍音[2]と呼ばれる。音楽で使われる音(楽音)では、一つの楽器を演奏したときでも常に倍音が存在する。音声では、母音部・鼻音部が周期的な信号なので、倍音が存在する。普通、倍音成分は聞こえず、基本周波数成分が聞こえ、それが音の高さとして感じられる。倍音成分はその楽器らしい(音声ではその音素らしい)音色を作る。

きれいにハモる二つの音を同時に出すと、3つ目の音が聞こえるとはどういうことだろうか。新たな音が生じるのか、既に存在し聞こえなかったものが聞こえるようになるのか。音楽音響学の本を調べたり、Web情報を調べたりしたが、明確な回答は今のところ見つかっていない。

そこで、googleの生成AI検索をしてみた。

ハモると倍音が聞こえますか。

AI>はい、ハモると倍音(協和音)が聞こえることがあります。…

きれいにハモったときだけ倍音が聞こえるのですか。

AI>いいえ、きれいにハモったときだけ倍音が聞こえるわけではありません。倍音は音を鳴らす際に、自然発生的に生じるもので、ハモっているかどうかに関わらず、すべての音に存在します。…

表現が専門的でなく不正確なところもあるが、手動検索で行きつく結果は、専門的にもこのようなものであろう。要するに、倍音は常に存在する。ただし、普段は聞こえず、音色のもとになる。ハモったとき聞こえることがある。しかし、聞こえる場合の条件がはっきりしない。

そこで以下の2つの音を作ってみた。

(1)一つ目は純正律でドとソの和音だ。楽器はトランペットである。これを「ドソ」と呼ぶ。

(2)二つ目は上の和音の前にド、ミ、ソの音を出したものだ。これを「ドミソードソ」と呼ぶ。

音は下にある。まず(1)を聞いてみよう。いわゆる倍音、上のドの音が聞こえるだろうか。聞こえない人が多いのではないだろうか。次に(2)を聞いてみよう。今度はどうだろうか。上のドの音が聞こえるのではないだろうか。(1)のように手掛かりがないと探しにくいが、(2)のように手掛かりがあり音の高さが予測できると、見つかるようだ。一度見つかると(1)でも見つかる。

これらの音をスペクトル分析した結果を図に示す。ドとソについて、基本音と2倍音、3倍音を矢印で示した。このように楽音は基本周波数音とその整数倍の周波数の成分からなる。従って成分は等間隔に並んでいる。「ドソ」のスペクトルは、 ドのスペクトルとソのスペクトルを重ねたものになっている。ドの3倍音とソの2倍音が重なっている。これは、ドの基本周波数とソの 基本周波数の比がぴったり2対3だからである。ドとソの和音から新たな音ができるとすれば、その重なりの部分であり、ドの2倍音でなくソの2倍音のはずである。しかし、聞こえているのはドの2倍音である。ドの2倍音はもともと存在していた。

以上のことから、和音の中に聞こえる倍音は、もともと存在するが、普段は聞こえず、ターゲットをそこに置き、気持ちをそこに集中すると聞こえるもの、ということになるようだ。音程がしっかりした和音の場合は、このように見つかる。しかし、音程がわずかにずれていると、きれいに重なるべき周波数がずれて、等間隔の性質がくずれて倍音が探しにくくなると考えられる。

(高良富夫:音・話ことばの実験室所長、琉球大学名誉教授、工学博士、日本音響学会終身会員 )

実験依頼

上記の実験結果をホームページの「コメント」で知らせていただければ、とてもありがたいです。

(1)「ドソ」で2倍音のドが聞こえるか(はい、いいえ)

(2)「ドミソードソ」で2倍音のドが聞こえるか(はい、いいえ)

(3)(2)の後「ドソ」で2倍音のドが聞こえるか(はい、いいえ)

(4)ほかにコメントがあれば、書いてください。

※この内容について、学術論文の探査は十分でなく、学会発表はしていないので、ご存じの方はご指摘くだされば幸いです。

文献

[1]高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, p. 61.

[2]高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, p. 41.

(1)ドソ

(2)ドミソードソ

スペクトルの図

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