私たちの身のまわりには、普段は気づかないノイズ(雑音)[1]が存在する。だが、それらは、聴覚のマスキングと呼ばれる効果によって聞こえない。また、注意を向けている音しか聞こえない。マスキング効果[2]とは、大きな音と小さな音が同時に耳に入ると、小さな音を聞こえなくする聴覚の働きだ。注意を向けている音しか聞こえないことは普段経験していることだ。これは、聞こうとしているものだけ聞き、必要のないものは聞かない無意識[3]の働きによるものだ。

クラシック音楽の演奏会では、演奏ちゅう物音を立てないよう静か[4]にする。また演奏中は会場に出入りできない。これは、 クラシック音楽では最も小さい音[5]ピアニシモ(pp)でも聞こえるようにするためだ。クラシック音楽ではppから最も大きい音フォルテシモ(ff)まで使う。これにより、楽曲に奥行き感が 出る。遠くの音は小さく、近くの音は大きく聞こえるから、遠近感ができるのだ。

ただし、先述の人間の聞こえの性質により、すぐノイズは気にならなくなる。また、この違いは、その楽曲に対する聴取者の親密性に大いに関係するようだ。私は、自分で歌った曲を録音したものなので、その違いがよく分かる。知人の放送プロデューサーに聞いてもらったところ、彼にとっては新しい曲なので、曲に注意して、ノイズの違いには注意が向かず、違いがあまり分からなかった。

マイクとスピーカを使って音を増幅すれば、ppでもノイズより大きい音にすることができる。だが、マイクではノイズも拾い増幅するので、マイクを口に近づけなければ、効果がない。合唱曲では、マイク2つくらいでは、口に近づけられないので、効果がないかも知れない。

文献

[1] 高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, p. 48.

[2] 高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, p. 16.

[3] 高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, p. 5.

[4] 高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, p. 15, 104.

[5] 高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, p. 3, 117, 120.