男声オペラ歌手および女性アルト歌手の歌声には、下図[1]に示すように、3kHz付近に歌手のフォルマント[2]と呼ばれる強い周波数成分があります。歌手のフォルマントがあるので、オーケストラの大音響の中からも聞こえ、ホールの最上部までも届く歌声になると言われています。

鼻母音[3]とは、母音を発声するとき鼻からも声を出すものです。日本語では助詞「が」の母音部が鼻音化することもありますが、言語によってはすべての母音に対応する鼻母音を持つものもあります。

以下に歌手のフォルマントのある母音(a, i, u)と鼻母音(a', i', u')を3回ずつ示します。出始めに鼻子音が付いたものが一部ありますが、母音部だけを比較してください。母音と鼻母音とでどちらが響いているでしょうか。

a, a, a, a', a', a'

i, i, i, i', i', i'

u, u, u, u', u', u'

[1]J. スンドベリ, 寺西立年訳「第3章 歌声と歌唱の知覚」(音楽の心理学 上) (1987) 西村書店, p. 79, p. 85.

[2]高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, pp. 57 – 60.

[3]高良富夫「音声言語処理入門」(2024)研究社, p. 81, pp. 145 – 146.