(琉球新報2024年11月2日論壇)
人工知能(AI)関連の研究がノーベル物理学賞と化学賞に輝いた。物理学賞と聞いたとき、私はおどろいた。AIは情報処理関連の内容であり、受賞者もよく知っている名前だったからだ。
AIの研究には過去に2回ブームがあった。1回目のブームは1960年代にあり、記号処理によるAIである<ELIZA>が開発され、最初の<学習>機械である<パーセプトロン>が発明された。
2回目のブームは1980年代で、「エキスパート・システム」と脳のモデルである<ニューラルネット>(NN)が開発された。日本では第5世代コンピュータとしてAIに巨額の研究費が投じられ、21世紀はAIコンピュータを日本がリードすると言われた。
筆者の専門分野である<音声認識>の研究では、NNと確率統計的認識システムである<マルコフモデル>が優秀さを競っていた。筆者もNNやマルコフモデルを応用した音声認識の研究をし、論文を書いた。また、「エキスパート・システム」を応用して<琉球語翻訳>の研究をした。
しかし、第5世代コンピュータの国家プロジェクトはうまくいかず、音声認識の分野ではマルコフモデルが優勢となり、NNの研究は下火になった。
その後も下積みのNN研究を続けていたのが、ノーベル賞を受賞したヒントン氏のグループだった。
2010年ころから3回目のAIブームになった。その主役は、<深層ニューラルネット>(DNN)だ。学習に使用できるデータが著しく多くなり、その処理ができるほどにコンピュータの速度が著しく向上したのが、成功の要因だった。
最近は<ChatGPT>など生成AIの話題で持ちきりだ。このブームがノーベル賞のきっかけになっているとも言われている。生成AIにもDNNが使われている。
しかしChatGPTは、学習用データが十分でない場合は、「うそ」の文章も生成するので、注意が必要だ。ChatGPTを使用できるのは、「13歳以上で、18歳未満のユーザーは保護者の同意が必要」となっている。
ヒントン氏は一時下火になっていたニューラルネットの研究を再び燃えあがらせた。ヒントン氏は、AI研究を推進するため巨大IT企業であるグーグル社に引き抜かれた。だが、現在はAIの行く末を憂慮して会社を辞めている。ヒントン氏がAIから一歩引いた後にノーベル賞を受賞するとは皮肉なものだ。
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<_>で示した用語について詳しくは以下の著書で。高良富夫:「音声言語処理入門―図解・音声・動画でわかる」(研究社、2024年)