(沖縄タイムス2021年5月1日書評)
ノーベル賞を受賞した山中教授のホームページに連載されていた時から読んでいたので、私は、出版されるのを心待ちにしていた。科学的データに裏付けされた、新型コロナウイルスに関する優れた解説書である。著者は医学者だが感染症は専門でない。しかし、科学の素養をいかんなく発揮した解説は、素人の私たちにとって、かえってわかりやすい。
社会現象を生き生きと明確に表現しているので、同じ時間を生きてきた私たちにでさえも、推理小説のように面白い。後々は文学作品としても評価されるのではないだろうか。武漢でのコロナの源流さがし、台湾がコロナ予防の優等生であった理由、ネアンデルタール人の遺伝子との関係、PCR検査がノーベル賞を受賞した検査法であることなど、興味は尽きない。
一斉休校、アベノマスク、GoToトラベルのタイミングなど、政府の愚策を思い起こさせてくれる。厚生労働省がPCR検査の数を抑えていたことを痛烈に批判する。コロナは、政治指導者の素質を世界中の人々の前にさらけ出した。優れていたのは女性指導者たちだった。
スウェーデンでは、「トリアージ」すなわち治療の優先度を決めて患者の選別が行われているという。終末医療に際した延命治療に関する考え方が日本とは異なる。
時々刻々と起こるコロナとの戦いと政府の対応。私たちがあやふやに思っていたことを本書は明確にする。いや実はマスコミを通じて知っていたはずのことを、科学を通してより明瞭にする。もしかすると、第二次大戦のころもそうだったのかもしれない。何かおかしいと、庶民にはもやもやとしか感じられない間に、政治は進んでしまったのではないか。
ようやくワクチンができたと結んでいる。しかし、コロナとの戦いはまだ続く。パンデミックの世界大戦における沖縄戦で、私たちができることは何だろうか。この難局を乗り越えるためには、本書のような科学的に正確な知識と思考法が有効だ。
新聞では「世界大戦」ー>世界的戦い、「沖縄戦」ー>沖縄の戦いとなっている。