(2026年5月6日沖縄タイムス論壇)

万葉仮名で記された文(万葉ことば・万葉語)を読み上げる音声合成システムを作った。これは、琉球語の汎用システムを用いて作った。日本で唯一の最古の奈良時代言語のシステムだ。この中には、一般の方にとっても興味深い琉球語と古代語の関係が含まれているので、これを説明したい。なお、ここで琉球語とは琉球諸語の総称である。

琉球大で私たちは、まず首里方言の音声合成システムを作った。そしてこれを発展させて、800種とも言われる琉球語の方言のすべてに対応できる、汎用の音声合成システムを構成した。これは、五十音表の音と単語アクセントを、ある方言のものに替えると、その方言の音声合成システムに変わる。

琉球語は、日本語のすべての時代の言語音を地理的に保存していると言われる。すると、この汎用合成システムでは、古い日本語もすべて合成できることになる。私は「音声言語処理入門」(研究社、2024年)という本を書いたとき、そのことに気がついた。そこで、この本の音声合成の章は琉球語を中心に記述した。もちろん、日本共通語(東京方言)のことも十分書いた。

万葉語の音声合成システムは、汎用音声合成システムを使って、1週間ほどで作ることができた。万葉語を、琉球語の一方言とみなしたとも言える。万葉語では、五十音表のハ行音はパ行音だった。つまり「母(haha)はパパ(papa)だった」のだ。また、母音は8種あった。私たちの声門破裂音の科学的分析と言語学の知見に基づき、現代の5母音に「い“、え”、お“」の音を加えた。単語アクセントは、首里方言のもので代用した。

私たちは、琉球の万葉集とも言われる「おもろさうし」の音声合成システムを研究開発した。今回は、万葉集それ自体のものだ。万葉集の和歌をいくつか合成して、その音声を、左記ホームぺージの「音と話ことばの子供博物館」に置いた。音声の品質はそう高くないが、この音を聞くと、まるで古代にタイムスリップしたようだ。

「琉球ことばの科学」という本にも書いたように、琉球語は、古今東西の日本語の科学的言語研究においてたいへん貴重だ。私の夢に現れる日本語族の系統樹では、琉球語がトップにあり、その下に琉球語の各方言・古代の万葉語・現代の日本語が並ぶ。貴重な文化遺産である琉球語の各方言を、それぞれ保存・継承することは、これほど重要だ。