歌手のフォルマント(SF)は、男性オペラ歌手の響きのある声に存在するスペクトルのピーク(山)である。SFがある声は、小さな音であっても遠くまで届き、マイク・スピーカーが無くてもオーケストラの大音響の中から抜け出てくる。
図1に、SFのある歌声のスペクトル包絡、スペクトル、その音声を示す。プロのオペラ歌手の声でも全く同じであることを確認しているが、著作権の問題があるので、ここでは、私の声を示す。スペクトルの横軸は周波数だ。スペクトルは、それぞれの周波数の成分の大きさを表すものだ。スペクトル包絡から分かるように、それにはいくつか山が現れる。それらの山は低い周波数のものから(図では左から)第1フォルマント、第2フォルマント、...と呼ばれている。SFは、3000Hz付近にある特別のフォルマントで、オペラ歌手の発声法を用いることにより、第3、第4、第5フォルマントが集まって、高い(強い)山になったものだと言われている。図1では、スペクトル包絡の3000Hz付近にある山がSFで、その左に第1フォルマントおよび第2フォルマントの山が見える。

スペクトル包絡

スペクトル
図1 /a/のスペクトル包絡、スペクトル、音声
音声を聞いてみると、「アー」という声と「響き」が重なって聞こえる。その「響き」がSFであることをこれから示す。
図2に、図1の音声の2000Hz以下(図では左側)の成分だけを残した音声の、スペクトルと音声を示す。図から、2000Hzくらいから小さくなりはじめ、3000Hzくらいではほぼゼロになっていることが分かる。第1、第2フォルマントはそのままの形で残り、SFはほとんど残っていない。

図2 /a/の2000Hz以下の成分だけを残した音声のスペクトルと音声
音を聞いてみると、「アー」は聞こえるが、「響き」がなくなっていることが分かる。このことから、母音の音色(ア、イ、ウ、エ、オ)は、2000Hz以下の成分で決まり、2000Hz以上の成分には無関係であることが分かる。また「響き」は、2000Hz以上にあることも分かる。
図3には、逆に2000Hz以上の成分だけを残した音声の、スペクトルと音声を示す。図から、2000Hzより左は徐々に小さくなっていることが分かる。図1と比較すると、2000Hzより右側の部分がそっくり残っていることが分かる。SFもはっきり見える。

図3 /a/の2000Hz以上の成分だけを残した音声のスペクトルと音声(歌手のフォルマントの音)
音声を聞いてみると、言語としての音色が聞こえない。かろうじて高さは聞こえる。このことから、図2の結果が再確認できる。すなわち、母音の音色は2000Hz以下の成分で決まり、2000Hz以上の成分は関係ない。ここでは「響き」だけが聞こえる。「響き」は、SFによって作られ聞こえることが分かる。
実は、歌手のフォルマント(SF)の音は、筆者も初めて切り出して聞いた。歌手のフォルマントそのものの音が作られたのは、これが世界で初めてかも知れない。オペラ歌手の歌声の「響き」はリング、つまり呼び鈴と呼ばれている。この音を聞くとまさにそのとおりだと思う。
別の音声でも同様に確かめた。音声を聞いていただきたい。
(i1)/i/の音声
(i2)/i/の2000Hz以下の成分だけを残した音声
(i3)/i/の2000Hz以上の成分だけを残した音声(歌手のフォルマントの音)
歌手のフォルマントの音は、/a/の音声のものに似ている。おそらく世界で2番目の音だ。
(u1)/u/の音声
(u2)/u/の2000Hz以下の成分だけを残した音声
(u3)/u/の2000Hz以上の成分だけを残した音声(歌手のフォルマントの音)
歌手のフォルマントの音は、/a/の音声のものに似ている。おそらく世界で3番目の音だ。
/a, i, u/で、歌手のフォルマントの音を確認した。これにより、すべての母音でもこのような音であることが言える。歌声において音の高さを担うのは母音部だ。これで歌声のすべてにおいて、歌手のフォルマントがオペラ歌手の歌声の「響き」を担っているということが言える。
歌手のフォルマント自体の音について、AI(Micro Soft Edge のCopilot)に世界中探させたが、彼は見つけきれなかった。その理由を彼は、「Singer’s Formant は「声道形状による帯域強調」であり、単独音として分離して鳴らすことが本来できない 。(声道モデルを使えば人工的には可能)」と言っている。私もこれまでそう思っていた。しかし、上で実験したように、母音とは周波数帯域が異なる。それを利用して分離できるのだ。また、単独に鳴らすことができないと思っていた。だが、ハミング「mmm..., nnn...」は歌手のフォルマントそのものを鼻から出したものだ。これは口から出ていないので、母音でないからだ。母音を無くしたものだ。ハミングを口からも出したものが、歌手のフォルマントの音だ。歌手のフォルマントの音は、発声法で言うところの声の「響き」だ。「響き」は単独に取り出せるのだ。これらのことは、発声法を練習している人にはとても有用な知識だと思う。
